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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)68号 判決

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第四号証によれば、引用意匠は、引用公報の第2図(従来品の分解斜視図、別紙第二参照)に記載された意匠であつて、短円筒状開口部を突設したスラブ5´、有底の縦長四角筒体状をなし、その外面下方に凹陥部を設けた本体枠壁3´、及び正四角形状の底板4´より構成されていることが認められる。

原告は、引用意匠は別紙第二に記載されている意匠そのもの、すなわち、スラブ5´と本体枠壁3´と底板4´が上、中、下にそれぞれ別れて配置されたものであり、これを一体にしたものでないのに、審決がこれを上下方向に一体にしたものと把握し、引用意匠に係る物品を「鉄筋コンクリート製マンホール」と認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証によれば、引用公報は、名称を「完成マンホール」とし、実用新案登録請求の範囲を「内面にタラツプ、外面に管路布設のための加工用薄壁部を設けた角筒状本体枠壁と、下部に底板、上部にスラブ部を各々設け、一体成型にて規格化生産せる鉄筋コンクリート製マンホールの構造」とする実用新案に関する出願公開公報であつて、前記第2図は「従来品の分解斜視図」であると記載されていることが認められる。右認定の事実によれば、引用公報の第2図に記載されたものが、鉄筋コンクリート製マンホールの従来品の分解斜視図であることは明らかである。そしてこの分解斜視図は、斜視図を単に上下方向に三つの部分に分離しているだけのものであるから、ここに図示されているものを、鉄筋コンクリート製マンホール、すなわちスラブ5´、本体枠壁3´、底板4´を上下方向に結合して一体としたものの意匠として把握し、その具体的形状を認識できることは明らかであり、本件において、右第2図が分解図であることは引用意匠をこのようなものとして把握し、本件意匠と対比して類否を判断する妨げとなるものではない。

したがつて、引用意匠をもつて、前記第2図に記載されたスラブ5´、本体枠壁3´、底板4´を上下方向に一体としたものとして把握し、引用意匠に係る物品を「鉄筋コンクリート製マンホール」とした審決の認定に誤りはない。

2 原告は、引用意匠は「鉄筋コンクリート製マンホール」そのものでなく「鉄筋コンクリート製マンホール」の分解されたものであり、本件意匠に係る物品である「配線用コンクリート桝」とは物品の用途機能を異にする旨主張する。

しかしながら、引用意匠に係る物品は「鉄筋コンクリート製マンホール」であること前記1説示のとおりであつて、原告の右主張はその前提において誤つており、採用することができない。

また、原告は、仮に引用意匠に係る部品が「鉄筋コンクリート製マンホール」であるとしても、引用意匠に係る物品はマンホールの埋設現場において別体となつていた底板、本体枠壁、スラブを組み立てて現場打ちするものであるのに対し、本件意匠に係る物品は工場で全体を製造し、埋設現場に運んでその場に置くだけで機能を果たすものであるから、両意匠は物品の用途機能を異にする旨主張する。

しかしながら、両意匠は物品の形状をもつて意匠とするものであることは別紙第一及び第二から明らかである(本件意匠の構成が別紙第一のとおりであることは当事者間に争いがない。)ところ、形状をもつて意匠とするものの類否判断においては、視覚を通じて認識される物品の形態の外観に係る構成と態様が判断の対象となるのであつて、両意匠とも全体を一体とした前記形態の物品として把握できること前述のとおりである以上、それが現場打ちされるものであるか否かは両意匠の類否判断に何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがつて、原告の前記主張は理由がない。

3 そこで、両意匠の基本的構成態様について検討すると、前記認定の別紙第二に示されたスラブ5´、本体枠壁3´、底板4´を上下方向で一体にした引用意匠の構成を図示すると、別紙第三のとおりであることが認められる。そして、本件意匠の構成を示すことについて当事者間に争いがない別紙第一記載の意匠と右引用意匠を対比すると、両意匠に係る基本的構成態様は、本体(引用意匠の本体枠壁3´及びスラブ5´の平面部)を有底の縦長四角筒体状とし、その筒体上端に短円筒状開口部(引用意匠のスラブ5´の突設部)を設け、筒体枠壁の外面下方に凹陥部を設けた構成において共通しているが、引用意匠は前記本体枠壁3´の下部にこれより幅広の底板4´を設け、右底板4´上に縦長四角筒体状の本体枠壁3´が載置されている構成であるのに対し、本件意匠には、このような底板はなく、全体が縦長四角筒体状をなしている構成である点において相違しているものと認められる。引用意匠が全体を縦長四角筒体状としたものでないことは、前掲甲第四号証によれば、引用公報の第2図に示された本体枠壁3´の底部は一辺がそれぞれ一・二cmであるのに対し、底板4´の一辺はそれぞれ一・六cmであること、本体枠壁3´の底部の一つの頂角と対角線上にある他の頂角間の長さは二・四cmであるのに対し、底板のそれは三cmであること、引用公報の第1図及び第3図から明らかなように、同公報記載の考案においても、本体枠壁は底板上に載置される構成になつていることが認められることから明らかである。

したがつて、両意匠に係る基本的構成態様に関する審決の認定は、両意匠が全体を有底の縦長四角筒体状とした点において共通しているとの認定において誤つているというべきである。

また、同様に両意匠の具体的構成態様を対比すると、両意匠は、審決認定の(1) 筒体の形成方法の相違に伴う外観上の差異、(2) 筒体の横辺と高さの構成比率(別紙第一中の斜視図と別紙第二の斜視図により対比すると、その比率は本件意匠が約一対一・四であるのに対し、引用意匠は約一対二・八であることが認められる。)において相違するのみならず、(3) 右筒体において、引用意匠は底板だけでなくスラブも別体をなしていること、及び(4) 本件意匠には短円筒状開口部に蓋があるのに対し、引用意匠には蓋がないことで相違し、かつ審決が共通としている点においても、(5) 筒体枠壁の外面下方に設けた凹陥部は横長四角状であるが、その横辺と縦辺の長さの比において、本件意匠は約四・五対一であるのに対し、前記斜視図によると、引用意匠は約一・五対一であること、において相違することが明らかである。

したがつて、両意匠に係る具体的構成態様に関する審決の認定は、右(3)ないし(5)の相違点を看過した点において誤つているというべきである。

そして、両意匠に係る物品及びその用途等からみて、両意匠の基本的構成態様と具体的構成態様のうち、物品の正面、側面及び平面に顕著に表れる部分が看者の最も注意を引く意匠の要部というべきであつて、その場合、本件意匠は、全体が有底の縦長四角筒体状をなし、その筒体上端に短円筒状開口部を、筒体外面下方に凹陥部をそれぞれ設け、かつ筒体の横辺と高さの比の差が一対一・四と小さいため、看者に全体としてずんぐりとした重量感のある印象を与えるのに対し、引用意匠は、本体枠壁3´が有底の縦長四角筒体状をなし、その筒体上端に短円筒状開口部を突設したスラブ5´を固着し、筒体外面下方に凹陥部を設け、さらに前記本体枠壁3´の下部に本体より幅広の底板4´を設け、底板上に本体を載置するように構成されており、かつ筒体の横辺と長さの比の差が一対二・八と大きいため、看者に全体としてスマートな印象を与えるものである。

審決は、筒体の横辺と長さの比の差について、微差にすぎないとしているが、この点は両意匠の正面及び側面に顕著に表れる部分であり、前記認定の基本的構成態様と共に両意匠の要部をなすものというべきであるから、この点をもつて単なる微差とすることはできない。

したがつて、両意匠は看者にそれぞれ異なつた美感を起こさせるものであるから、両意匠の具体的構成態様における前記認定のその余の相違点について検討するまでもなく、本件意匠は引用意匠に類似しない意匠というべきである。

4 以上のとおりであつて、審決は、引用意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様についての認定を誤り、その結果両意匠の類否判断に当たり、本件意匠は引用意匠に類似する意匠であると誤つて判断したものであり、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕 本件に関する特許庁での手続の経緯は左のとおりである。

原告は、登録第五七八七六二号意匠を本意匠とし、意匠に係る物品を「配線用コンクリート桝」とする別紙第一記載のとおりの構成からなる類似意匠登録第一号意匠(昭和五四年四月一二日登録出願、昭和五七年三月三一日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告らは、昭和五八年七月二六日、原告を被請求人として、本件意匠の登録無効審判を請求し、昭和五八年審判第一六五七九号事件として審理された結果、昭和六三年三月九日、「登録第五七八七六二号類似意匠登録第一号意匠の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年三月二六日原告に送達された。(以下省略)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一

意匠に係る物品 配線用コンクリート桝

説明      背面図は正面図と、右側面図は左側面図と同一にあらわれる。

<省略>

(以下省略)

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